豊かな環境との共生システムの構築について


江田 昌美

1.はじめに

 私は、地方の中小ゼネコンの技術者として、20数年、バブル経済の中、社会資本の整備の担い手という旗頭の中、それとは裏腹に企業の経済効率ただ一点の為に無我夢中で働いてきた。
 しかし、バブル経済も去り、長期的な経済不況の中、民間の需要は落ち込み、公共事業費は年々削減の一歩をあゆみ、業界でも倒産、リストラが相次ぎ始めた。
 日本の場合、リストラと言うと単なる首切りを意味し、その標的となるのが、かつてはバブルの戦士として馬車馬のように働いてきた我々中高年者である。明日をもしれぬ恐怖と戦いながら、将来の事をあれこれ考えていたとき、ISOという言葉と出会った。これは、「国際標準化機構」の略で、一般的には、国際規格と呼ばれている。組織がこの規格に適合する体制を構築して、企業の合理化を行うためのもので、9000の品質と14000の環境の2つに大別されている。この中の14000の環境を勉強していくうちに、地球環境問題の重大さに気づき、我々がこれまで、良かれと思ってとってきた行動が、地球環境に重大な悪影響をもたらしていることに気づいた。
 そこで、私は、この機に皆さんに警鐘を発する意味でも私の考えを述べたいと思う。

2.リオ宣言から10年
 1992年ブラジルのリオデジャネイロで開催された、「地球サミット」において、先進国の国家主席または指導者が一同に会し、満場一致で「リオ宣言」が採択された。
 これは、環境と経済効率を別途に考えるのではなくて、経済活動と環境を一体にした、豊かな環境との共生システムが盛り込まれた内容だった。
 しかし、10年が経過した現在、この宣言は有効であったのだろうか。環境問題は、良化したのであろうか。答えは、最近の世界的な異常気象を見る限りでは、残念ながら良化どころか悪化の一途をたどっている事は、確実な状況であると思える。 どうして、良化しないのであろうか、それは、人類だれしもが、被害者意識はあるものの加害者意識が薄いのが最大の原因と言えるのではないだろうか。その理由を次に述べる。

3.公害問題と環境問題の比較

 加害者意識が持てない理由を述べるときに、最初に、公害問題と比較してみると理解が得やすいのではないかと思う。 まず、公害問題のほうは、「四日市ぜんそく」「水俣病」の例を見てもわかるように、問題の発生が局地的で被害者も加害者も特定できる。
 規制の方法も、行政が排水溝の出口、煙突の出口で規制を行う方法、これをエンドオブパイプと呼んでいるがこの方法である程度の効果は可能なことであると思う。
 一方の環境問題は、地球的な規模で進み、一体誰が被害者なのか加害者なのかを特定できないのが現実である。
 一例を挙げれば、オゾン層の破壊を見てみると、誰かがフロンを大気中に放出すると、すぐに影響が現れるのではなく、10〜15年の歳月を費やしてオゾン層に達してダメージを与える。
 規制の方法も、先進国が採択した「リオ宣言」も「地球温暖化防止京都会議」においてのCO2削減の決議も有効な手段とは言えないのが現状である。
 この現状を踏まえて、これまで環境を壊し続け、汚し続けたA級戦犯ともいえる建設業に従事してきた立場から、今後の方策について次に述べたいと思う。

4.豊かな環境との共生のために
 産業革命以来、我々人類は、便利さ、経済効率という自己中心的な考え方で地球を汚し続けてきた。
 このままの状態が続くと、21世紀後半には、気温の上昇で約5℃、海面水位が10〜90cm上昇すると予測されている。この数字を見たときに、たったの5℃かと思われる事だと思う。しかし、異常気象と言われている現在でも、19世紀と比較すると、たったの0.5℃しか上昇していない。つまり、単純計算で10倍の数字に跳ね上がるわけである。数字だけでは、理解できない方のために、IPCCという団体がまとめた、2100年に気温が2℃上昇したと仮定したときのシュミレーションを紹介したいと思う。

1)  海水が膨張したり、北極海の氷河などが融けて、海面が約50cm上昇する。更に南極の氷が融けると この数字は跳ね上がる。

2)   砂漠化現象が更に進み、地球全体の森林面積の1/3で植生の変化等、生態系への影響がでる。

3)   温暖化により、熱帯性の伝染病の発生範囲が広がる。

4)  降雨のパターンが大きく変化し、内陸部では乾燥、熱帯地帯では熱帯性低気圧が猛威を振い、洪水や高潮などの被害をもたらす。

5)   温暖化により、病害虫がはびこり、穀物生産が大きく落ち込み世界的な食糧危機を引き起こす。

これは、2℃上昇したときのシュミレーションで、これの、2.5倍の数字まで上昇したら、まさにこの世の終わりである。
こんな事態を引き起こさないためには、今が重要なのである。今、我々が、自分だけはという自己中心的な考えを捨て去り、一人一人が加害者意識をもって取り組まない限り、地球の未来は、無いと言っても過言ではない。このための私の考える方策は、5Rという言葉である。詳しく説明すると、5つのRのつく言葉の頭文字をとった言葉である。つまり、

1) Reduse(リジュース):有効に使って、無駄を出さない。

2) Reuse(リユース) :何回も繰り返し使う。

3) Recycle(リサイクル) :これはおなじみの再資源化である。

4) Refill(リファイル)  :補充して使う。

5) Repair(リペアー) :修理して使う。

 この5つを是非忘れずに、今日から、いや今から実践していくことが、我々が環境に貢献できる方策だと思う。 最後に、行政にも一言申し上げたいと思う。
第一に、事業を計画する際には、我々民間の声にも耳を貸すべきだと思う。
次に、環境と共生できる公園の整備、道路、ビルの屋上緑化を促進すべきだと思う。
 行政には、これを確実に実行していただきたいと思う。

5.おわりに

 私は、これまで開発や社会資本整備の大義名分のもとに環境を壊し、汚し続けてきた、その罪滅ぼしとして、今後は環境に貢献できる生き方を実践するつもりである。その方策が先ほどの5Rであり、ISO14000の推進者として環境に貢献できる組織つくりにまい進して行く所存である。
 これが、私たちの子孫が物理的な便利さ、安全性のみにとらわれず、生きがいをもって生活し、自然や文化を学び、それと親しむなど、本当の豊かさを実感できる。環境との共生した生活環境を継承していくと言うことであると私は考える。                            
                                                           以上

                                   
 

※写真はイメージです。
本文とは関係ありません


同友かわら板トップへ
掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転写・公衆送信等を禁じます。